月の女神の贈り物
男の子は毎晩月を見ていました。
「今夜はさびしそう…」
翌日もまた、
「今夜は悲しそう…」
そう言って泣いていました。
ある日、お母さんが「どうして月を見て泣くの?」と聞いたので
「さみしそうだから。かわいそうで悲しくなるんだ」
声も出さず、ただ静かに涙が頬をつたう僕を見て、お母さんも泣きました。
僕は生まれつき、耳が聞こえません。だからお母さんの声を知りません。
でもそんなことは何でもなかった。
お母さんとは手話があったし、
それに大好きなお母さんのことは目を見れば心がしっかり伝わったから。
お母さんに「どうして僕を見て泣くの?」と聞くと、
お母さんは目に涙をいっぱい溜めて「ごめんね」そう言って僕を強く抱きしめました。
そうか。お母さんは、僕が悲しむと僕の何倍も悲しいんだと胸が痛くなりました。
それからは、僕が月を見て泣いたりしないよう
「どうか、お月さまが明るく元気になりますように」と心の中で、たくさん願いました。
その夜は、満月でした。
僕はうれしくてお母さんに伝えました。
「たくさんお月さまのために祈ったら、あんなにきれいな姿で輝いてくれたよ」
それを聞いたお母さんも、笑って喜んでくれました。
僕はうれしくてお月さまに「ありがとう、お母さんが笑ったよ!」
男の子は月と心が通じることを知りました。
その日からお月さまは、ぼくの友だちになりました。
たくさんお話しして、毎日「ありがとう」を伝えました。
時に雲に霞んでさびしそうに見えても、ぼくはもう泣かないで
「君にはすごい力があるね。お母さんを笑顔にできるから。」とたくさんの感謝を伝えました。
そうしたら次の日は、まるで優しくゆったり微笑む美しい三日月の姿でした。
毎日うれしくて「もうどこに行っても一緒だよ。そしてありがとう、ぼくの友だち」
心の中で大きく叫びながら伝えました。
いつの間にか、お母さんと一緒に夜空の月を見ながら感謝するようになっていました。
ある夜、ひときわ眩しい満月の光で目が覚めました。
圧倒的に煌くまばゆい光のなか、ゆっくり目を開けてみると
「私は月の女神です」薄桃色の光に包まれた美しい女神が現れました。
「あなたのたくさんのありがとうが私の心に届きました。
おかげでこんなに輝く光となりました。ありがとう、私の友だち。
さあ、私の光の世界に案内しましょう」
ぼくはキラキラと煌くまばゆい光の中に入って行きました。
翌朝、ぼくはお母さんの声で目が覚めました。
あっ…僕の耳…お母さんの声が聞こえる…
そして僕とお母さんはたくさんの涙と本当の笑顔になりました。
ありがとう。ぼくの友だち、月の女神様。